【有給休暇 基準日統一】年次有給休暇の斉一的取扱いについて分かりやすく解説

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この記事では、入社日によってバラつきが出る「年次有給休暇」の「付与基準日」を統一する方法(斉一的取扱い)について分かりやすく解説しています。

はじめに

年次有給休暇を取得できる日数は、入社後「6か月継続勤務」「8割以上出勤」で10日間付与され、その後1年毎に所定日数が付与されていきます。

中途採用を行う会社では、この「6か月」が「入社日」によって異なるため、社員毎に「年次有給休暇」の「付与基準日」がバラバラとなってしまいます。

この記事では、この問題の解決策となる 「年次有給休暇」の「付与基準日」を統一する方法(斉一的取扱い)について解説していきます。

年次有給休暇の権利はいつ付与される?


まず、本題に入る前に「年次有給休暇」を取得する権利は、いつ、どのような条件で発生するか見ておきましょう。

年次有給休暇を取得する権利は、以下の対照表に基づき・・・

各勤続年数に到達するまでの1年間(初回のみ6か月間)に、8割以上出勤した場合

赤枠で示した所定の日数が付与されます。

なお、

  • 上段は「1週5日以上」もしくは「30時間以上」勤務の主にフルタイム労働者
  • 下段はパート・アルバイト等の短時間労働者

についての対照表となります。

この記事では、話を分かりやすくするため、上段のフルタイム労働者の場合を例として解説していきます。

ちなみに、この記事の表現に使う「付与日」とは・・・

「年次有給休暇」を取得することができる「権利日数」を付与する日のことを指します

実際に「年次有給休暇」を取得させた日のことではありませんので混同しないようご注意下さい。

年次有給休暇の「付与基準日」は全社統一日とすることができる

「年次有給休暇」の「付与基準日」や「付与日数」、「取得済の日数」や「未取得の残日数」を管理していく上で、

労務担当者を悩ませる一番の問題点は・・・

入社日が違えば「付与基準日」も違ってくること

ではないでしょうか?

社員数が数名のうちは、あまり問題にならないかもしれませんが、社員数が増えて来ると大変です。

ここに、2019年4月1日から施行された「年次有給休暇の年5日取得義務」の管理も合わさると、更に煩雑さが増してきます。

「年次有給休暇の年5日取得義務」については、以下の記事をご参照下さい。↓

そこで、この問題を解決する有効な手段として・・・

「年次有給休暇の付与基準日」の「斉一的(せいいつてき)取扱い」

の導入が考えられます。

「斉一的(せいいつてき)」というのは、「同じようにそろえる」といった意味で、つまり・・・

「年次有給休暇」の「付与基準日」を全社統一日にそろえて管理しやすくする取扱い

を導入するということになります。

有休付与基準日「斉一的取扱い」の導入方法

この取扱いを「自社の制度」として導入するためには・・・

「就業規則への明記」と「就業規則変更届」の労働基準監督署への届出

が必要となります。

労働基準監督署への届出にあたっては、「全労働者への周知」と「労働者代表」からの意見書受入が必要となります。

ちなみに、この取扱いを制度化するにあたり、労使協定は必要ありません。

「斉一的取扱い」の導入時に注意しなければならないこと

労働基準法に年次有給休暇付与基準日の「斉一的取扱い」について定めはありませんが、以下の厚生労働省通達によって、制度化する場合に守らなければならない事項が示達されています。

 

その概要は以下のとおりです。


斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である八割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

厚生労働省通達(平成6年1月4日基発第一号:労働基準法の一部改正の施行について 5(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い

つまり、「年次有給休暇」を付与するにあたっての判定基準である「出勤率8割以上」を算定するにあたり・・・

例えば、

入社6か月後が本来の「付与基準日」であるところ、3カ月後に「斉一的取扱い」によって「付与基準日」が到来する場合は、

「前倒し」した3カ月間については全て出勤したものとみなして算定しなければならない

こととなります。



次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。

厚生労働省通達(平成6年1月4日基発第一号:労働基準法の一部改正の施行について 5(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い

つまり・・・

一度、年次有給休暇の「付与基準日」を法定の基準日より「前倒し」した場合には、

その1年後(以内)に、新たな年次有給休暇の「付与基準日」を設定しなければならない

こととなります。

ある年度だけ「前倒し」して「付与基準日」を設定するようなことはできないということです。

年次有給休暇の「斉一的取扱い」を導入する際には、以上の示達項目について遵守するよう注意しなければなりません。

法定の「付与基準日」より後に「斉一的取扱いによる付与基準日」を設定してはならない


そして最後に、これは通達では示達されていませんが・・・

法定の「付与基準日」より後に「斉一的取扱いによる付与基準日」を設定してはならない

ことについても注意しておかなければなりません。

例えば、「9月1日」に入社した労働者であれば、初回の付与基準日は、本来「入社後6か月経過日」である翌年「3月1日」となります。

このような労働者に対し「斉一的取扱い」を理由に付与基準日を「4月1日」として1カ月遅らせるような取扱いは労働基準法違反として認められないということです。

ちなみに、「斉一的取扱い」による「付与基準日」を年1回としたい場合は・・・

法定どおりに、入社後「6か月経過日」を「初回基準日」とし、2回目以後の基準日を「斉一的取扱い」とする

もしくは

「初回基準日」を「6か月経過日」でなく「入社日」に繰上げて10日分を付与し、2回目以後の基準日を「斉一的取扱い」とする

などの対応が必要となります。

理由は、以下の例に示した一覧のとおり、「6か月継続勤務・8割以上出勤で10日付与」を満たせない場合が出てくるからです。

「斉一的取扱い」の問題点

それでは続きまして、年次有給休暇の「斉一的取扱い」自体が抱える問題点についてみていきましょう。

この問題点については、何と言っても・・・

入社日によって、付与基準日までの日数に不公平が生じる

ことが挙げられます。

例えば、全てのフルタイム労働者について、入社後「6か月経過日」を初回の付与基準日とし、2回目以降の付与基準日については、毎年「4月1日」を「斉一的取扱い」による付与基準日として運用する場合・・・

令和2年9月1日入社であれば、

初回付与基準日は、6か月経過後の「令和3年3月1日」

に到来し、

2回目付与基準日は「斉一的取扱い」として、そのすぐ1か月後の「令和3年4月1日」

に到来することとなります。

つまり、初回・2回目の各付与基準日において、出勤率8割以上を満たしていれば、入社後7カ月の間に・・・

初回付与基準日において10日間、2回目付与基準日において11日間、計21日間の年次有給休暇が付与される

こととなります。

その一方で、令和2年11月1日入社であった場合は、

初回付与基準日は、6か月経過後の「令和3年5月1日」

に到来しますが、

2回目付与基準日は「斉一的取扱い」として、その11か月後の「令和4年4月1日」

と、ずいぶん先に到来することとなり・・・

計21日間の年次有給休暇を付与されるためには、入社後17カ月間において出勤率8割以上を満たさなければなりません。

「斉一的取扱い」の問題点を是正するための方法


年次有給休暇の「斉一的取扱い」による「付与基準日」を決定するにあたっては、先述した厚生労働省の通達以外に、特に細かいルールは存在しません。

したがって・・・

年に1回だけでなく、複数回の基準日を定めることも可能です。

また、

年次有給休暇の「付与日数」については、法を上回る場合であれば、自由に決定することができます。

よって、「入社後6か月」が経過する前に、「出勤率8割以上」に関係なく、事業主が独自に定めた日数の年次有給休暇を付与することも可能です。

ただし、この場合も「年次有給休暇」は、毎年一定の「付与基準日」において、法定のルールを下回らないよう付与しなければなりません。


ここでは「斉一的取扱い」の問題点を是正する方法として・・・

  • 年に2回「斉一的取扱い」による「付与基準日」を定める方法
  • 入社時に「所定の日数」を付与する方法

の2つを組み合わせて解説していきます。

なお、あまり多くの「付与基準日」を定めてしまうと、管理がややこしくなり「斉一的取扱い」本来の目的が失われてしまうこととなりますので注意が必要です。

年に複数回年次有給休暇の「付与基準日」を設ける


まず、「斉一的取扱い」の不公平をできるだけ是正するために・・・

  • 「4月1日」から「9月30日」入社:斉一的取扱いによる付与基準日「10月1日」
  • 「10月1日」から「3月31日」入社:斉一的取扱いによる付与基準日「4月1日」

のように定め、「入社後6か月」が経過しなくても、上記の「付与基準日」が到来した段階で10日間の年次有給休暇を付与する方法について見ていきましょう。

例えば、「5月1日」入社の場合、本来の「初回付与基準日」は6か月経過後の「11月1日」ですが、5カ月経過後の「10月1日」到来時に、初回10日間の年次有給休暇を付与することとします。

ちなみに、この際「出勤率8割以上」の算定において短縮した1カ月分については全て出勤したものとみなすこととなります。


斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である八割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

厚生労働省通達(平成6年1月4日基発第一号:労働基準法の一部改正の施行について 5(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い

なお、上記について、「入社日」から「初回付与基準日」までの期間を一覧にすると、以下のようになります。

年に2回「付与基準日」を定めた結果、不公平が発生し得る期間は、年に1回定めた場合の半分に短縮されたことが分かります。

それでも最長6か月間の「不公平」が発生してしまいます。

そこで、下記のように「付与基準日」の回数を増やし、「不公平」となる期間を更に縮める方法が考えられます。

ただし、先ほども申しましたように、 あまり多くの「付与基準日」を定めてしまうと、管理がややこしくなり「斉一的取扱い」本来の目的が失われてしまうこととなります。

また、10日以上の「年次有給休暇」を付与した時点で、事業主は、「年5日間の年次有給休暇」を時季指定して取得させなければならない義務を負うこととなります。

こちらの管理も同じくややこしくなってしまいますので注意が必要です。

「年次有給休暇の年5日取得義務」については、以下の記事をご参照下さい。↓

なお、1年間に定める「付与基準日」を2回に留めた場合でも、「入社日」に別途の「年次有給休暇」をあらかじめ付与することによって、「不公平」の度合いをより小さくできる方法があります。

入社日に所定日数の年次有給休暇を付与する


さて、今一度、年2回「付与基準日」を定めた場合の例を見てみましょう。

この場合、「入社日」の違いによって、最長6か月間の不公平が発生しています。

そこで、以下のように「年次有給休暇」を「入社日」に付与すれば、「不公平」の度合いをより小さくすることができます。

例えば、

「4月」入社の社員は・・・

10日間の「初回付与基準日」到来まで、5~6か月ありますが、「入社日」に5日間の「年次有給休暇」を別途もらえる。

「9月」入社の社員は・・・

入社日翌月の「10月1日」に10日間の「初回付与基準日」が到来するので、「入社日」に別途もらえる「年次有給休暇」はない

といった具合になり、入社日による「不公平」の度合いはより小さくなります。


なお、ここで1点注意しておかなければならないことがあります。

それは・・・

  1. 入社時に付与する「年次有給休暇」
  2. 斉一的取扱いによる「基準日」に付与する「年次有給休暇」

のそれぞれについては、全く別物の「年次有給休暇」として与えなければならないことです。

つまり、入社時に5日の「年次有給休暇」を付与したからといって・・・

初回の「基準日」に付与する10日から「入社時」に付与した5日を差し引いてはならない

ということです。

「斉一的取扱い」と「分割付与」の違いに注意する

先ほどの解説において・・・

初回の「基準日」に付与する10日から「入社時」に付与した5日を差し引いてはならない

と説明しましたが、これは、あくまでも「斉一的取扱い」により「基準日」を定めた場合に限っての注意点です。

一体どういうことなのでしょうか?

実は、上記のように・・・

「基準日」より前に付与した日数を、実際の「基準日」に付与する日数から差し引くこと自体は認められています。

このような取扱いを、年次有給休暇の「分割付与」といい、

入社後「最初の基準日」までの間にの認められています。

ただし、この「分割付与」を行った場合には・・・

2回目の「付与基準日」を「初回付与日」の1年後以内に定めなければなりません。

5.年次有給休暇

(1)(2)略

(3)年次有給休暇の斉一的取扱い

(1)の年次有給休暇について法律どおり付与すると年次有給休暇の基準日が複数となる等から、その斉一的取扱い(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱いをいう。)や分割付与(初年度において法定の年次有給休暇の付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日以前に付与することをいう。)が問題となるが、以下の要件に該当する場合には、そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。

イ(中略)

ロ 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。(例えば、斉一的取扱いとして、四月一日入社した者に入社時に一〇日、一年後である翌年の四月一日に一一日付与とする場合、また、分割付与として、四月一日入社した者に入社時に五日、法定の基準日である六箇月後の一〇月一日に五日付与し、次年度の基準日は本来翌年一〇月一日であるが、初年度に一〇日のうち五日分について六箇月繰り上げたことから同様に六箇月繰り上げ、四月一日に一一日付与する場合などが考えられること。)

厚生労働省通達(平成6年1月4日基発第一号:労働基準法の一部改正の施行について 5(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い

今一度、以下の一覧表を用いて説明します。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-26.png

例えば、

「4月1日」の入社時に5日分を「分割付与」したものとして

「10月1日」の「初回付与基準日」に残りの5日分を「分割付与」することで

合計10日分を付与したものとしましょう。

この場合には・・・

2回目の「付与基準日」を翌年「10月1日」ではなく、翌年「4月1日」以前に定めなければならない

こととなります。

つまり、各「入社日」から1年以内に2回目の「付与基準日」を定めなければならなくなるということです。

これでは、「斉一的取扱い」の問題点を是正するために・・・

  • 年に2回「斉一的取扱い」による「付与基準日」を定め
  • 入社時に「所定の日数」を付与

して作った仕組みが全く使えなくなってしまうという訳です。

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まとめ

今回は、 「年次有給休暇」の「付与基準日」を統一する方法(斉一的取扱い)について解説してきました。

基準日を揃えるだけのことかと思いきや、いざ実行となると「不公平」が発生する等、いろいろ対処しなければならない問題点があることが把握できたのではないでしょうか?

会社経営者、労務担当者の方におかれましては、是非ともこの記事を活用し、社内体制の整備にお役立ていただければと思います。

年次有給休暇について、他の記事をご覧になりたい方はこちらもご覧下さい。↓

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