この記事では、 「年次有給休暇」取得日を計画的に割り振ることができる「計画的付与」(計画年休制度)について分かりやすく解説しています。
<この記事はこんな方におすすめです>
✅有休の計画的付与(計画年休制度)について知りたい 会社経営者・労務担当者の方
✅ 有休の計画的付与(計画年休制度) について知りたい管理職の方
✅ 有休の計画的付与(計画年休制度) について知りたい労働者の方
はじめに
2019年4月以降、年次有給休暇を時季指定により「年5日」取得させる義務が事業主に課されました。
この義務を履行する上では、「年次有給休暇」取得日を計画的に割り振ることができる制度を導入するのが効果的です。
この記事では、労働基準法39条に定められている、年次有給休暇の「計画的付与」(計画年休制度)について解説していきます。
年次有給休暇の権利はいつ付与される?
まず、本題に入る前に「年次有給休暇」を取得する権利は、いつ、どのような条件で発生するか見ておきましょう。
年次有給休暇を取得する権利は、以下の対照表に基づき・・・
各勤続年数に到達するまでの1年間(初回のみ6か月間)に、8割以上出勤した場合
に赤枠で示した所定の日数が付与されます。
なお、
- 上段は「1週5日以上」もしくは「30時間以上」勤務の主にフルタイム労働者
- 下段はパート・アルバイト等の短時間労働者
についての対照表となります。
ちなみに、この記事の表現に使う「付与日」とは・・・
「年次有給休暇」を取得することができる「権利日数」を付与する日のことを指します
実際に「年次有給休暇」を取得させた日のことではありませんので混同しないようご注意下さい。
計画年休制度とは?
年次有給休暇の「計画的付与」(計画年休制度)とは・・・
あらかじめ労使協定を締結することにより
年次有給休暇の付与日数のうち「5日を除いた残りの日数」の中から
事業主が休暇取得日をあらかじめ指定できる制度
です。
計画年休制度導入のメリット
「計画年休制度」は・・・
- 従業員から年次有給休暇の申出がしづらい雰囲気がある場合
- 業務多忙を理由に従業員からの年次有給休暇申出が増えない場合
- 採用時に確実に取得できる休日数の多さをアピールしたい場合
- 繁忙期を避けて有給休暇取得を促したい場合
- 人繰りの関係上、各人の有給休暇取得時季を分散させたい場合
などに導入するのが効果的です。
また、2019年4月以降、年次有給休暇を時季指定により「年5日」取得させる義務が事業主に課されましたが・・・
この制度により取得させた日数についても「年5日」取得義務を履行したものとしてカウントすることができる
ことも、大きなメリットであると言えます。
(年次有給休暇の「年5日取得義務」の詳細については以下の記事をご参照下さい↓)
なお、 年次有給休暇を「年5日」取得させる義務においてポイントとなる「時季指定」については、「労働者の意見を聴取」した上で、その希望をできる限り尊重した上で決定しなければならないこととなっています。
一方、「計画年休制度」は、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は過半数代表者)との間で労使協定を締結することを前提に、その内容に基づき、事業主側が取得日を指定できる点が大きな違いとなっています。
計画年休は拒否できないため、年5日は指定対象外とされている
この計画年休制度・・・
取得日を指定された労働者は、必ず指定日に休暇を取得しなければなりません。
つまり、強制力があるということです。
このため、「計画的付与」を行うにあたっては・・・
労働者が自由に取得できる日数を最低「年5日」は残しておかなければならないルールが設けられています。
例えば、「付与基準日」に「20日」の年次有給休暇を付与した従業員に対しては、「5日」残さなければならないので、「計画的付与」ができるのは「15日」までの範囲内となります。
有休の計画的付与は前年度繰越し分についても可能
なお、前年に付与された年次有給休暇のうち、例えば「3日」が未取得のまま、当年度に繰り越された場合は、当該「3日」についても「計画的付与」の対象とすることができます。
例えば、 「付与基準日」に「20日」の年次有給休暇を付与した従業員に対しては、「5日」を残した「15日」と、前年から繰り越された「3日」の計「18日」までの範囲内で「計画的付与」を行うことができます。
計画年休指定の際はパート等も「5日」残す必要がある
パート・アルバイト等の短時間労働者については、1週間あるいは1年間の出勤日数に応じて「年次有給休暇」比例付与が行われますが、この場合も「計画年休日」を指定する際に残しておかなければならない「5日」に変更はありませんので注意が必要です。
「計画年休」を付与する3つの方法
「計画年休」には、以下3つの付与方法があります。
会社・事業場の全てについて一斉休業とする日を指定する方法
生産設備を一斉に止めた方が効率がよい、製造業の事業場などで、よく採用されている方法です。
部単位・課単位・係単位など、グループ別に一斉休業日を指定する方法
全社的に一斉休日を増やすことが難しい事業場などで、よく採用されている方法です。
個人別に「計画表」を作成し、休業日を指定する方法
人繰りの関係上、各人の有休取得時季を分散させたい事業場などで、よく採用されている方法です。
また、個人別に「メモリアル休暇」を設定したい場合や、個々人の業務内容も考慮したうえで「年末年始」「夏休み」「ゴールデンウィーク」等、大型連休と紐づけた長期連休の取得を促進したい場合にも採用されています。
ただし、この方法を採用する場合には、「計画表」をいつ、どのように作成し、休業日の指定を行うか?について、あらかじめ労使協定に定めておかなければなりません。
計画年休制度はどのように導入する?
年次有給休暇の計画的付与(計画年休制度)を導入するためには・・・
- 就業規則等への明記
- 労使協定の締結
が必要となります。
なお、労使協定で定める項目は、以下のとおりとなります。
- 計画的付与の対象者
- 対象となる年次有給休暇の日数
- 計画的付与の具体的な方法
- 年次有給休暇の付与日数が少ない者の扱い
- 計画的付与日の変更
計画年休制度の「労使協定」については、労働者の過半数により組織する労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で必ず締結しなければなりませんが、労働基準監督署への届出義務はありません。
ただし、従業員数10名以上の事業場について就業規則等への明記を行った場合は、「就業規則変更届」を労働基準監督署へ届出しなければなりません。
また、従業員数10名未満の事業場については、就業規則の作成義務および労働基準監督署への届出義務はありませんが、就業規則に準ずるものとして「計画年休制度」に関する規定等を別途作成し社内周知しておく必要があります。
なお、「計画年休制度」導入時における労使協定・就業規則等の締結・作成方法については以下の記事をご参照下さい。↓
計画年休日の変更方法について
具体的な「計画年休日」を一度決定した場合は、事業主側からも従業員側からも原則変更を行うことはできないことになっています。
変更を行う場合、原則的には、その変更内容について労使協定を再締結しなければなりません。
ただし、あらかじめ、労使協定締結時に以下のような文言を折り込んでおけば、やむをえず変更が必要となった場合にも柔軟に対応することが可能となります。
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引用元:厚生労働省 年次有給休暇取得促進特設サイト 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定(例)
業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員代表と協議の上、第〇項に定める指定日を変更するものとする。
年次有給休暇の付与日数が5日以下の場合は?
年次有給休暇については、必ずしも全社員が5日を超えて付与されるとは限りません。
- 入社してから6か月経たない新入社員
- 1年(6か月)間に8割以上出勤の要件を満たさなかった従業員
- 5日以下で有休が比例付与される短時間労働者
等のように年次有給休暇の付与日数が5日以下となる場合、「計画年休制度」の取扱いはどのようになるでしょうか?
まず考えられるのは・・・
「計画年休制度」の対象者から除外する
方法です。
この場合は、労使協定にその旨明記しておく必要があります。
「年5日」を除く残りの日数を計画的付与できない従業員については「計画年休制度」の対象外とすることを明記します。
次に考えられるのは・・・
「年次有給休暇を前倒し」もしくは「特別休暇を付与」する
方法です。
この場合は、就業規則にその旨明記しておく必要があります。
可能な場合は「年次有給休暇」の前倒しにより、できない場合は「特別休暇」の付与をもって「計画年休日」に充てることを、明記しておきます。
もう一つ考えられるのは・・・
「休業手当」を支払う
方法です。
この場合は、「計画年休日」1日あたり、平均賃金の6割以上を支払わなくてはなりません。
管理監督者等、労働基準法41条該当者の扱い
労働基準法41条に定められた労働者については「労働時間」「休憩」「休日」に関する規定を適用しないこととなっています。
しかしながら、「年次有給休暇」に関する規定については、上記の中に含まないこととなっています。
よって、「計画年休制度」は、法41条該当者についても他の労働者と同じく適用されることとなります。
ちなみに、労働基準法41条該当者とは・・・
- 管理監督者であって、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者
- 農水産業従事者(林業を除く)
- 監視など断続的労働従事者で労働基準監督署の許可を受けた者
を指します。
計画年休指定時に産休・育休予定者がいる場合の注意点
産休・育休を申出する前に、年次有給休暇の時季指定が行われていると、労働基準法上、産休・育休よりも年次有給休暇取得の方が優先されます。
この場合、産休・育休期間中は無給と定めていても、産休・育休期間中に給与を支払わなければならないことになってしまいます。
また、産休・育休期間中に年次有給休暇分の賃金を支払ったとした場合、出産手当金・育休給付金の給付額算定上、この賃金支払実績が反映され、場合によっては、手当金・給付金の支給額が減額調整されてしまうことも考えられます。
よって、
「計画年休」の労使協定には、必ず、産休・育休取得者は対象から除外する旨を定めておく
必要があります。
ちなみに、産後休業期間(出産後56日間)については、労働基準法により、そもそも就労することが禁止されておりますので、年次有給休暇を取得できる余地はなく、この問題は発生しません。
計画年休指定時に退職予定者がいる場合の注意点
時季指定された「計画年休」の予定日が到来する前に退職する場合、退職予定者は、当該日について年次有給休暇を取得しようがない場合があります。
よって、
「計画年休」の労使協定には、退職予定者についても対象から除外する旨を定めておく
必要があります。
それでは「計画年休日」を指定した後に退職の申出をした従業員についてはどうなるでしょうか?
この場合は、退職予定日後に到来するはずであった「計画年休日」について、退職する前に取得したい旨の申出があれば、使用者はその申出を拒否することはできません。
計画年休は半日単位・時間単位で指定できる?
「計画年休日」は・・・
半日単位での指定は可能です。
ただし、
時間単位での指定はできないことになっています。
ちなみに、年次有給休暇の「年5日取得義務」においても、使用者が時季指定できるのは「半日単位」までであり、「時間単位」での指定はできないことになっています。
その理由は、労働者が「リフレッシュ」できるか否かで考えると分かりやすいかと思います。
まとめ
この記事では、 「年次有給休暇」取得日を計画的に割り振ることができる「計画的付与」(計画年休制度)について解説してきました。
近年は、新入社員の求職活動において、休みの多い会社が選好されやすい傾向にあります。
この「計画年休制度」をうまく活用すれば、採用活動において休暇日数の多さをアピールすることも可能です。
会社経営者、労務担当者の方におかれましては、是非ともこの記事を活用し、社内体制の整備にお役立ていただければと思います。
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