この記事では、労働基準法等に定める年次有給休暇の制度概要について解説しています。
<この記事はこんな方におすすめです>
✅ 年次有給休暇の制度概要について知りたい 会社経営者・労務担当者の方
✅年次有給休暇の制度概要について知りたい労働者の方
✅年次有給休暇の制度概要について知りたい管理職の方
はじめに
会社勤めの人であれば「年次有給休暇」制度について知らないという方はいないのではないでしょうか?
この制度は、文字通り、「年間」ベースで決められた日数を上限に「給与が支払われる休暇」を取得できるものであり、労働基準法において、事業主は一定条件のもと、必ず従業員に与えなければならないこととされています。
ところが、この「年次有給休暇」制度、その内容を詳しく見ていくと、意外と知られていない様々なルールが存在します。
2019年4月以降、企業規模の大小を問わず全ての事業主に対して「年次有給休暇の年5日取得」が義務化されたことにより、会社経営者・労務担当者にとって「年次有給休暇」制度の運用は、昨今、益々重要性を帯びて来ています。
この点も踏まえ、この記事では、労働基準法等に定める「年次有給休暇」制度の概要について概要のみ簡単に解説していきます。
なお、各制度概要の詳細については、概要記事の中に関連ページへのリンクを貼らせていただきましたので、そちらをご参照下さいますようお願い致します。
年次有給休暇とは?
それでは、年次有給休暇制度の大まかな内容について解説していきます。
年次有給休暇の権利はいつ付与される?
まずは、「年次有給休暇」を取得する権利は、いつ、どのような条件で発生するか見ていきましょう。
年次有給休暇を取得する権利は、以下の対照表に基づき・・・
各勤続年数に到達するまでの1年間(初回のみ6か月間)に、8割以上出勤した場合
に赤枠で示した所定の日数が付与されます。
なお、
- 上段は「1週5日以上」もしくは「30時間以上」勤務の主にフルタイム労働者
- 下段はパート・アルバイト等の短時間労働者
についての対照表となります。
ちなみに、年次有給休暇の「付与日」とは・・・
「年次有給休暇」を取得することができる「権利日数」を付与する日のことを指します
実際に「年次有給休暇」を取得させた日のことではありませんので混同しないようご注意下さい。
年次有給休暇付与にあたっての出勤率算定
「年次有給休暇」は、付与基準日までの1年間(初回は6か月間)において「8割以上出勤した場合」に所定の日数が付与されますが、この8割以上を算定するにあたっての出勤率は以下のとおり計算します。
出勤率 =「出勤日数」÷「全労働日」
なお、上記の「出勤日数」には・・・
「遅刻・早退した日」は含め、「所定休日に出勤した日」は除きます。
また・・・
- 業務上の傷病により休業した日
- 労働基準法に基づく産前産後休業を取得した日
- 育児介護休業法に基づく育児休業・介護休業を取得した日
- 年次有給休暇を取得した日
は、その全てを出勤したものとしてカウントすることとなっています。
いっぽう、「全労働日」からは・・・
- 使用者側の都合による休業日
- ストライキ等の労働争議による休業日
- 所定休日に労働した日
を除いてカウントすることとなっています。
半日単位・時間単位での年次有給休暇取得も可能
使用者は、「年次有給休暇」を「半日単位」・「時間単位」で取得させることができます。
ただし、「時間単位」で取得させる場合には・・・
- 労使協定を締結すること
- 年5日を限度とすること
が必要となります。
ちなみに「年5日限度」の5日とは、「1日あたりの所定労働時間数 × 5日分」を指します。
なお、「半日単位」での取得には、上記のようなルールは存在しません。
「時間単位」では「労働者がリフレッシュできないため」このようなルールがある
と考えれば分かりやすいのではないでしょうか?
使用者による時季変更権について
「年次有給休暇」は、原則「労働者の請求する時季」に与えなければならないことが労働基準法により定められています。
ただし・・・
「事業の正常な運営を妨げる場合」使用者は休暇を与える「時季の変更」を指示することができる
とも定められています。
ちなみに、この場合、使用者が指示できるのは「時季の変更」についてのみであり、変更後の休暇日は 「労働者の請求する時季」に与えなければならないこととなります。
ところで、この「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、具体的にどのような場合を指すのでしょうか?
簡単に解説しますと、このことは以下の2点に要約することができます。
- 当該労働者がその日に勤務することが業務の運営にとって不可欠であること
- 代替要員の確保が困難であること
つまり、「業務多忙」のみを理由に、使用者の「時季変更権」は認められないということです。
年次有給休暇の時効は2年間
年次有給休暇は「付与基準日」から2年の間に請求しなかった場合、その請求権が消滅します。
年次有給休暇の買い取り
年次有給休暇の買い取りは、原則認められていません。
ただし、会社が独自に就業規則等で定め、運用している場合はこの限りではありません。
なお、この場合も、年次有給休暇を使用者が意図的に買い取り、日数を減じることは労働基準法違反として、懲役6カ月または30万円以下の罰金の対象となりますので、絶対に行ってはなりません。
よって、年次有給休暇の買い取りは・・・
- 退職予定日までの日数が少ない場合
- 労働者側の都合により「付与基準日」から2年間の時効到来までに取得しきれない場合
等においてのみ行うことができるものと言えます。
年次有給休暇の年5日取得義務
次に、年次有給休暇の「年5日取得義務」について押さえておきましょう。
「年次有給休暇の年5日取得」については、2019年4月から「企業規模の大小を問わず全ての事業主」に対して義務化されていますので注意が必要です。
それでは、概要について見ていきます。
年次有給休暇は・・・
企業規模の大小にかかわらず
1年間に10日以上の付与義務がある労働者に対して
1年間に最低5日間、「時季を指定して」
取得させなければなりません。
ここでいう「時季を指定して」というのは・・・
事業主が「労働者の意見を聴取」した上で、その希望をできる限り尊重した上で、有給休暇日を決定
し、取得させなければならないという意味です。
ところで、上記のとおり、最低5日間については「時季を指定して」取得させなければならないとされているなかで・・・
例えば、既に2日間の年次有給休暇を「自ら申出し取得済」である労働者に対してはどうなるでしょうか?
この場合は・・・
残りの3日間について「時季を指定して」取得させれば足りる
こととなります。
つまり、労働者が「自ら申出して取得した分」と通算して、年間5日となるように取得させればよいということになります。
一方、上記を通算し「年間5日を超える日」については、逆に「時季指定できない」こととなりますので、こちらも注意しておきましょう。
ちなみに、「時季指定済」の年次有給休暇日が到来する前に、自らの申出により5日間の有休を取得した場合も、あらかじめ「時季指定」した年次有給休暇予定日が無効になる訳ではありません。
ただし、この場合、労働者本人との間で取り決めすれば「時季指定」した日の取消しをすることができます。
なお、 「年次有給休暇の年5日取得義務」については、上記以外にも様々な取決めがございます。
詳細については、以下の記事をご参照下さい。↓
年次有給休暇の「付与基準日」は全社統一日とすることができる
それでは続いて、 「年次有給休暇の付与基準日」の「斉一的(せいいつてき)取扱い」 について見ていきましょう。
「年次有給休暇」の「付与基準日」や「付与日数」、「取得済の日数」や「未取得の残日数」を管理していく上で、
労務担当者を悩ませる一番の問題点は・・・
入社日が違えば「付与基準日」も違ってくること
ではないでしょうか?
社員数が数名のうちは、あまり問題にならないかもしれませんが、社員数が増えて来ると大変です。
ここに、2019年4月1日から施行された「年次有給休暇の年5日取得義務」の管理も合わさると、更に煩雑さが増してきます。
そこで、この問題を解決する有効な手段として・・・
「年次有給休暇の付与基準日」の「斉一的(せいいつてき)取扱い」
の導入が考えられます。
「斉一的(せいいつてき)」というのは、「同じようにそろえる」といった意味で、つまり・・・
「年次有給休暇」の「付与基準日」を全社統一日にそろえて管理しやすくする取扱い
を導入するということになります。
なお、「年次有給休暇の付与基準日」の「斉一的取扱い」 を導入するにあたっては、様々なルールが定められています。
詳細については、以下の記事をご参照下さい。↓
年次有給休暇の計画的付与(計画年休制度)
さて、次は「年次有給休暇」の「計画的付与」(計画年休制度)について見ていきましょう。
計画年休制度とは・・・
あらかじめ労使協定を締結することにより
年次有給休暇の付与日数のうち「5日を除いた残りの日数」の中から
事業主が休暇取得日をあらかじめ指定できる制度
です。
【計画年休制度導入のメリット】
「計画年休制度」は・・・
- 従業員から年次有給休暇の申出がしづらい雰囲気がある場合
- 業務多忙を理由に従業員からの年次有給休暇申出が増えない場合
- 採用時に確実に取得できる休日数の多さをアピールしたい場合
- 繁忙期を避けて有給休暇取得を促したい場合
- 人繰りの関係上、各人の有給休暇取得時季を分散させたい場合
などに導入するのが効果的です。
また、2019年4月以降、年次有給休暇を時季指定により「年5日」取得させる義務が事業主に課されましたが・・・
この制度により取得させた日数についても「年5日」取得義務を履行したものとしてカウントすることができる
ことも、大きなメリットであると言えます。
なお、 年次有給休暇を「年5日」取得させる義務においてポイントとなる「時季指定」については、「労働者の意見を聴取」した上で、その希望をできる限り尊重した上で決定しなければならないこととなっています。
一方、「計画年休制度」は、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は過半数代表者)との間で労使協定を締結することを前提に、その内容に基づき、事業主側が取得日を指定できる点が大きな違いとなっています。
なお、「計画年休制度」 を導入するにあたっても、様々なルールが定められています。
詳細については、以下の記事をご参照下さい。↓
年次有給休暇の分割付与
続きまして、年次有給休暇の「分割付与」についても見ていきましょう。
この「分割付与」を一言で説明しますと・・・
入社後、最初の「付与基準日」が到来する前であっても、「10日」の中から、その一部を前倒しで「分割付与」できる
仕組みとなります。
例えば、「3日」を前倒しで「分割付与」した場合、その後最初の「付与基準日」が到来した際には、差引き「7日」分を付与すればよいこととなります。
なお、この仕組みの適用は、年次有給休暇を取得する権利が全くない「最初の付与基準日」までの間に限られますので注意が必要です。
また、この「分割付与」を行った場合には・・・
2回目の「付与基準日」を「初回の分割付与を行った日」の1年以内に定めなければならない
ことについても注意しなければなりません。
例えば、
「4月1日」の入社時に5日分を「分割付与」したものとして
「10月1日」の「初回付与基準日」に残りの5日分を「分割付与」することで
合計10日分を付与したものとしましょう。
この場合には・・・
2回目の「付与基準日」を翌年「10月1日」ではなく、翌年「4月1日」以前に定めなければならない
こととなります。
つまり、この例の場合は、「入社日」から1年以内に2回目の「付与基準日」を定めなければならなくなるということです。
なお、 年次有給休暇「分割付与」の詳細については、以下の記事をご参照下さい。↓
有給休暇取得日における賃金計算
それでは最後に、「有給休暇取得日における賃金計算」について見ていきましょう。
「有給休暇」中の賃金計算方法については、労働基準法により3つの方法が定められています。
【労働基準法により定められた3つの計算方法】
- 所定労働時間労働した場合の通常賃金
- 平均賃金
- 健康保険法の標準報酬日額(*)
(*)3.を採用する場合は労使協定の締結が必要となります。
事業主は、就業規則等に定めることにより、これらの中から自社で用いる計算方法を決定しておかなければならないこととなっています。
なお、就業規則等には・・・
年次有給休暇を取得した場合の賃金は、●●●の賃金を支払うこととする。
といった文言を定めておきます。
また、
この計算方法は統一しなければならず、同一の会社内において部門や社員毎に複数の計算方法を適用することはできません。
ちなみに、有給休暇取得時の賃金は、その計算方法によっては、通常通り出勤した場合と同一の給与(賃金)が支払われるとは限らず、減額支給となる場合があります。
結論から申し上げますと・・・
- 所定労働時間労働した場合の通常賃金
- 平均賃金
- 健康保険法の標準報酬日額
のうち、2と3の計算方法を事業主が採用している場合に減額支給となる場合があります。
なお、 「有給休暇取得日における賃金計算」の詳細については、以下の記事をご参照下さい。↓
まとめ
この記事では、労働基準法等に定める「年次有給休暇」制度の概要について解説してきました。
昨今、益々重要性を帯びて来ている「年次有給休暇」の運用制度について、会社経営者、労務担当者の方におかれましては、是非ともこの記事を活用し、マスターしていただければと思います。
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