この記事では、育児休業期間中の社会保険料免除制度の詳細について、初心者でもインプットしやすいよう、わかりやすく解説しています。
<この記事はこんな方におすすめです>
✅産休・育休制度を知っておきたい会社経営者の方
✅初めて産休・育休手続きをする担当者の方
✅これから産休・育休の利用を考えている社員の方
✅産休・育休制度の内容を、おさらいしたい方
✅産休・育休制度の最新情報を知りたい方
はじめに
「育休中や産休中は社会保険料が免除になる」と聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?
ただし、この社会保険料免除制度。よくよく確認してみると・・・
- 免除対象とはならない場合があったり
- 実際の育休(育児休業・出生時育児休業)期間と免除期間が同一でなかったり
- 育休中と産休中で扱いが異なっていたり
と、気を付けておかなければならないポイントがいくつかあります。
令和4年4月1日より育児介護休業法が改定され、企業規模の大小を問わず、本人又は妻の妊娠・出産を申出した労働者に対して育休取得の意向確認、制度内容の個別周知を行うことが義務化されました。
よって、会社手続き担当者の方は育休に関する制度について、社員の方へ誤った説明をしてしまわないよう、事前にしっかり理解しておく必要があります。
ぜひとも、この記事をお役立ていただければと思っております。
もちろん、これから育休を取得予定の社員の方が、ご一読いただいても結構です。
会社の立場から制度を理解できますので、わかりやすいと思います。
なお、ここでは、船員保険に加入する方、および共済組合等に加入する公務員の方は除いて解説しますのでご了承下さい。
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免除されるのは健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料の3つ
それでは最初に、免除対象となる保険料について解説します。
なお、この記事に記載する「育児休業(育休)」には、令和4年10月より制度運営がスタートした「出生時育児休業(産後パパ育休)」も含むものとします。
それでは、解説を始めさせていただきます。
一言で「社会保険料」と言いましても、広義の意味では・・・・
a.狭義の意味での「社会保険料」である、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料
に加えて・・・
b.雇用保険料や労災保険料といった「労働保険料」
を含める場合があります。
育休期間中に免除となる「社会保険料」は、上記a.狭義の意味での「社会保険料」のみを指し、雇用保険料や労災保険料は含みませんので注意して下さい。
なお、このことは、産休期間中の社会保険料免除についても同様です。
ついでと言っては何ですが・・・・
育休期間中のb.「労働保険料」の取扱いについても一応、触れておきます。
育休期間中の雇用保険料と労災保険料
すでに手続きを担当している方には釈迦に説法となりますが・・・
雇用保険・労災保険については、会社が毎年1回保険料を申告し、一括または分割で支払います。
具体的には、原則6/1~7/10の間に、前年4/1~当年3/31まで1年間の賃金支払総額を集計し、保険料を算定のうえ申告します。
さて、ここで重要なポイントとなりますが・・・
この申告の際、育休対象者の有無は考慮されません。
ということは、結果的に保険料免除の対象外であるということになります。
雇用保険料については、賃金支払いの都度、労働者の本人負担分を会社が預り金として徴収しておき、申告後に会社負担分と合わせて納付します。
育休期間中であっても、給与や賞与など、賃金を支給する場合は、通常通り徴収が必要となりますので注意が必要です。
雇用保険料については、育休期間中であるか否かに関係なく、賃金の支払いがあればその都度、徴収の対象
となることを覚えておいて下さい。
このことは産休期間中であっても同様です。
なお、労災保険料は会社のみ負担となっていて労働者負担分はありませんので、このような手続きは発生しません。
免除対象とならない労働者もいる
さて、次に免除対象者について解説します。
「育休期間中は社会保険料が免除になる」ということは・・・
「育休を取得できる労働者全てが免除を受けられる」
と、誤解しがちです。
しかしながら、育休は取得できても、育休期間中の社会保険料が免除にならない労働者もいますので注意しなければなりません。
育休制度と社会保険料免除の関係
詳しく見ていくと・・・
育児休業は、「育児介護休業法」上の制度
育休期間中の社会保険料免除は、「健康保険法、厚生年金保険法」上の制度
となっているため・・・・
育児介護休業法に基づき育休は取得できても、会社を通じて健康保険に加入していない場合等は、保険料免除を受けられない場合があります。
育休中の社会保険料免除が受けられないケース
パートやアルバイト等、短時間で働いている労働者
飲食・理美容業など、健康保険への加入が強制となっていない個人事業主の元で働いている労働者
等であって・・・
自分で国民健康保険に加入している場合
が該当します。
ただし、例外として、同種同業の組合員で組織された国民健康保険組合に加入している労働者の一部には、組合独自の定めで、保険料が免除される場合があります。
よって、自分で国民健康保険に加入している人に対しては、加入先の国保から保険料が免除されるのか否かを個別に事前確認しておくよう、お伝えしておいたほうが無難です。
なお、国民年金保険料については既に産休期間中の免除制度は施行済であり、育休期間中の保険料免除制度についても現在検討がなされています。(令和8年度中の施行が目標とされています)
市町村国保を含めた全ての国民健康保険料についても、令和6年1月1日より産休期間中について免除制度が導入されました。
ただし、市町村国保を含めた全ての国民健康保険料について、育休期間中の保険料免除制度については未だ具体化されていない状況です。
免除を受けるには申請が必要
育休期間中の社会保険料免除を受けるためには、日本年金機構もしくは加入先の健保組合に対して、育児休業取得者申出書の提出が必要です。
この申出書は育休期間中に提出しなければなりませんので注意して下さい。
(ただし、育休終了後1カ月以内であれば遅延理由書の添付無しでも受理してもらえます)
なお、令和4年10月以降は、「育休の分割取得」および「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度が創設されることに伴い、同月内に複数回に分けて育休を取得するケースの発生が見込まれます。
この場合は、事務手続き簡素化の観点から、最後の育休取得時に、同一月内における複数回の休業期間分をまとめて提出してもよいとされています。
ちなみに、国保組合加入で免除申請できる場合についてですが、この場合は、加入者本人が各国保組合へ問い合わせのうえ手続きを進めることとなります。
子が3歳になるまでの準育休期間も保険料免除の対象
育休期間中の社会保険料免除においては・・・
育児介護休業法に定められた「子が1歳(最長2歳)になるまでの育休期間」
に加え、
子が3歳になるまでに「育休に準ずる休業」をした期間
についても免除期間に含めることとされています。
免除承認前に保険料納入の告知が行われた場合
免除の申請が承認となる前に日本年金機構もしくは加入先の健保組合から保険料納入の告知が行われてしまった場合は、いったん本来免除となるべき保険料額を含めて納入することとなりますが、その翌月以降に保険料の減額調整が行われます。
よって、トータルで支払う保険料の額に多い少ないの差は生じません。
本人負担分・会社負担分ともに免除対象となる
社会保険料の免除期間中は・・・
労働者本人負担分、会社負担分のどちらも免除となります。
標準報酬月額(≒給与平均額のイメージ)の約15%ずつが免除となりますから、金額的にも非常に大きいものとなります。
なお、これらは産休期間中についても同様となります。
賞与も保険料免除の対象となるが免除ルール改定に注意する
それでは賞与が支給された場合はどうなるでしょうか?
こちらも、労働者本人負担分・会社負担分ともに、健康(介護)保険料・厚生年金保険料を合わせて、標準賞与額(*)にかかる保険料の全てが免除となります。
(*)税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた額(健康保険は年度累計573万円・厚生年金保険は月あたり150万円が上限)
また、この場合・・・
賞与支給額の査定対象期間がいつであるかは問いません。
支給日が育休期間中にあるか否かでのみ決定します。
厳密には、育休期間=保険料免除期間ではないのですが、ひとまず、このように理解しておいて下さい。
ちなみに、令和4年10月以降は、法改正により・・・
連続1カ月を超えて育児休業を取得した場合に限り、賞与から徴収する社会保険料を免除とする
よう、ルール改正済であることについても、ここで押さえておいて下さい。(ルール改正の経緯については後ほど解説します)
なお、ここでいう連続1カ月とは、2月10日~3月9日、9月10日~10月9日のように、暦によって1カ月を判定し、その期間を超えた場合に「1カ月を超えたもの」と判定します。
ちなみに、月をまたいで「連続1カ月に満たない」育児休業を取得した場合は、社会保険料の免除対象となりませんが、日本年金機構による当該判定作業に時間がかかることから、賞与にかかる社会保険料の請求が1カ月遅れて到着することがある点にも注意しておきましょう。(賞与支給月の分について請求が無いことから、免除になったと勘違いしないよう注意が必要です)
保険料免除期間中の年金額計算
保険料が免除されている間については・・・
休業直前の標準報酬月額等級に基づき計算した保険料を納付したものとみなされます。
よって、将来受取る年金が減額される心配はありません。
育休期間=免除期間ではない
さて、ここまで、「育休期間中は社会保険料が免除される」という言い方をしてきました。
しかしながら・・・
実際の「免除期間」は「育休期間」と同一ではありません。
どういうことなのか見ていきましょう。
保険料免除期間の決まり方
まず、免除期間がどのように決められているか解説します。
健康保険法・厚生年金保険法では、社会保険料免除期間について・・・
育児休業を開始した月から、終了日の翌日の属する月の前月分まで
と定めています。
この決定ルールには、以下のとおり注意しておくべきポイントが3つあります。
1つずつ確認していきましょう。
保険料免除期間は月単位で決定
1つ目のポイントは、月単位で決定される点です。
月単位で免除月が決まりますので、日単位で取得する育休期間とは当然ながら一致しません。
免除開始は休業開始月から
2つ目のポイントは、「休業開始月から」免除となることです。
仮に育休開始日が月末日であっても、その月の保険料は徴収しないこととなります。
(令和4年10月以降、賞与については連続1カ月を超えて育休を取得した場合に限り保険料免除となりました)
育休を予定している社員の方がいる場合は・・・
保険料徴収をした月と同じ月内に、後から育休を開始した場合、返金等の後日清算が必要になる場合があります。
先回りして、注意しておきましょう。
月末日に休業していないと免除されない場合がある
3つ目のポイントは「育休終了日の翌日の属する月の前月まで」免除となることです。
つまり、育休終了日が27日などの月末近くであっても、月末日に休業していなければ、原則、その月の保険料を徴収しなくてはならず、免除期間はその前月までになるということです。
14日以上休業した月(育休開始日と終了日の翌日が同月内になる場合)は免除対象となる
令和4年10月以降は・・・
月末日に休業していなくても、14日以上の育休を取得している場合、その月の保険料は免除される
よう、法改正されていますので注意が必要です。
なお、上記の14日間には・・・
労使協定に基づき、出生時育児休業(産後パパ育休)期間中に就労した場合の日数は含めません。
一方、育休開始日と終了日の間にある会社休業日(土日祝日など)は含めて計算します。
ちなみに、出生時育児休業期間中に時間単位で就労した場合は・・・
その時間数の合計を1日あたり所定労働時間数で除した数(1未満切捨て)を日数とします。
例えば、3日間に渡り、それぞれ5時間・4時間・6時間と就労した場合、1日の所定労働時間数が8時間であるならば、5+4+6=15時間÷8時間=1日(1未満切捨て)が就労した日数となります。
それでは、月末日1日だけ育休を取得した場合はどうなるでしょうか?
その答えは・・・
月末日1日だけ休業した場合も、その月の社会保険料は免除となる
です。
「育休の開始日であり終了日でもある月末日」に休業した場合は、その翌日の属する月の前月分について保険料が免除になる・・・からです。
(なお、令和4年10月以降、賞与については連続1カ月を超えて育休を取得した場合に限り保険料が免除されることとなりました)
保険料免除期間中の給与引き落し停止手続きはどうやる?(リンク)
ここまでの解説で、育休期間中の社会保険料免除の仕組みについて、基本的なところは理解できたかと思います。
とはいっても、実務を担当する方は「実際どのように給与からの保険料徴収を停止したらよいか?」の説明がないと気がかりなのではないでしょうか?
記事が多くなり過ぎますので、ここでは解説しませんが、以下のページへのリンクを貼らせていただきますので、ぜひ参考にして下さい。
賞与にかかる保険料免除ルールが改定された背景
さて、話を元に戻しまして、さきほど解説した「保険料免除期間の決まり方」の中で・・・
月末日1日だけ休業した場合も、その月の社会保険料は免除となる
というルールがありました。
が、今までこれが育休期間に適用される中で、少し悩ましい問題を引き起こしてきました。
月末1日だけ育休を取得させて、その月に賞与を支給すれば社会保険料がタダになる!?
このような、裏技のような話を聞いたことはありませんでしょうか?
産前産後休業の場合はその性格上、1日だけ取得するというのは明らかに不自然ですので、このようなケースは発生しないでしょう。
しかしながら、育休の場合は、夫である男性社員等が1日だけの取得を希望しても不自然ではありません。
このため、ルール上は、(もっぱら保険料削減を目的とした)裏技のような申請をできなくもありませんでした。
なお・・・
育休期間中の社会保険料免除においては、子が1歳になるまでの育休期間に加え、子が3歳になるまでの養育期間中、育休に準ずる休業をした場合についても免除期間に含めることとされています。
免除対象となる子の年齢も拡充されている中で、
「まずは、3歳未満の子がいる社員を探して・・・」
ということが問題視されてきたということです。
そこで、上記の問題を背景として、令和4年10月以降は、
連続1カ月超の育休を取得した場合のみ、賞与からの保険料徴収を免除とする
よう法改正されることとなりました。
なお、この法改正は、あくまでも育休取得者に限って適用されることになっています。
「産休の開始日が月末日でも、その月に支払われた賞与から保険料徴収しない」という点に変更はありませんので混同しないようにして下さい。
また、この法改正は賞与に限った話であり、給与に対する保険料免除ルールは変更されていません。
よって、月末日の1日だけ育休や産休を取得した月についても、その月の給与にかかる社会保険料は免除となりますので注意して下さい。
会社役員の場合、産休中は社会保険料免除となるが、育休中は免除されない
さて、表題にもあります通り、会社代表者や役員の社会保険料については・・・
産休中は免除対象になります
が・・・
育休中は免除対象になりません。
なぜ、このようなルールになっているのでしょうか?
できるだけ、わかりやすく解説します。
なお、ここでの会社役員からは、使用人兼務役員を除きますのでご注意ください。
会社役員も産休中の社会保険料免除はOK
まずは、会社代表者や役員が産休した場合の社会保険料免除がどのような背景で適用されているか解説します。
産休期間中の社会保険料免除は、健康保険法・厚生年金保険法に定めがあります。
この中で、同法は・・・
産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間
を「産前産後休業期間」としています。
この期間は、あくまでも健康保険法・厚生年金保険法で定めるものであり、労働基準法で定める産休期間とイコールではありません。
よって、労働基準法が適用されない会社代表者や役員であっても、健康保険法・厚生年金保険法の産休期間に該当する休業をすれば、保険料が免除されることになっています。
会社役員の育休中、社会保険料免除はNG
一方、健康保険法・厚生年金保険法は、育休期間中の社会保険料免除についても定めています。
ただし、この中では育休期間について、「産前産後休業期間」のように個別の定めをしていません。
つまり、ここでの育休期間は、育児介護休業法を根拠とした、子が1歳(延長の場合は最長2歳)になるまでの育児休業期間、および子が3歳になるまでの育児休業に準ずる期間とイコールになっています。
よって、育児介護休業法が適用されない会社代表者や役員には、社会保険料免除も適用されないというわけです。
まとめ
今回は、育休中の社会保険料免除ルールについて解説してきました。
令和4年10月の法改正後、同一月内での育休取得時や賞与からの保険料免除時等、例外ルールが追加されたことで、従前よりも制度内容が複雑になってきています。
手続きを進める際には、また再読し、ぜひ活用していただければと思います。
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