この記事は、産休・育休手続に不慣れな企業担当者の方でも迷わず対処できるよう、全7回に渡り各手続をスケジューリングし、ナビゲーション形式で解説しています。
<この記事はこのような方におすすめです>
✅初めて産休・育休手続きをする企業担当者の方
✅産休に続けて育休を取得する場合の手続きについて知っておきたい企業経営者の方
✅産休に続けて育休を取得する場合の手続きについておさらいしたい方
はじめに
「産休・育休」取得実績が乏しい企業の経営者・労務担当者の方は、社員から申出を受けた際、「何をすればよいのか?」すぐに分からず困ってしまうことがあるのではないでしょうか?
「産休(産前産後休業)」および「育休(育児休業)」制度の内容は多岐に渡り、行うべき手続きも非常に多いため、常にルールや手続き方法をインプットしておくのは、あまり現実的ではありません。
このため、手続きが必要となった際に「どのような手続きをすべきか?」と「いつまでにそれを行うべきか?」を順序立てて確認できる記事を執筆しました。
この記事では、「産前産後休業」および「育児休業」の手続きをリストアップし、スケジュール順にそのポイントを全7回に渡り解説していきます。
他の回をご覧になりたい方はこちらをご参照下さい。
この記事を活用するにあたっての注意点
この記事では、手続き時の「必要書類」について「書式」や「書き方」の解説はしておりません。
具体的な「必要書類」や「書き方」については、「全国健康保険協会」ページへの「リンク」を貼らせていただきましたので、そちらをご参照下さい。
また、船員保険に加入する方、および共済組合等に加入する公務員の方は除いて解説しておりますのでご了承下さい。
なお、この記事の解説対象となる方は、会社を通じて・・・
- 健康保険(「全国健康保険協会(協会けんぽ)」又は「健康保険組合」)
- 厚生年金保険
- 雇用保険
に加入している社員の方(使用人兼務役員を含む)となります。
上記に加入せず・・・
- 国民健康保険(国民健康保険組合を含む)
- 国民年金
に加入している社員の方
- 雇用保険に加入していない会社役員の方
は、この記事の解説対象となりませんのでご注意下さい。
また、雇用保険に加入している社員の方であっても・・・
- 産休開始日前2年間の合計加入月数が12か月に満たない方(*1)
- 退職予定の方
- 育児介護休業法で認める理由以外で「育児の為の休業」を取得した方(*2)
については、雇用保険から「育児休業給付金」を受給することができませんのでご注意下さい。
(*1)(*2)詳細については以下の記事をご参照下さい。
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産休開始前の手続き(前半)
それでは、これから・・・
- 社員の方が出産に伴い「産前産後休業」を取得してから
- 子が1歳になるまで「育児休業」を続けて取得する
前提で、会社側の担当者が行うべき手続きをリストアップし、スケジュールに沿ってポイントを解説していきます。
この記事では、第1回として、「産休開始前の手続き(前半)」について解説していきます。
産休・育休に関する各制度や手続きが、それぞれどの法律に準拠しているかを最初に理解しておくと、後々、よりスムーズに手続きを進めていくことができます。
以下の記事に分かりやすくまとめておりますので、あわせてご活用ください。
1-1 )妊娠・出産の申出をした労働者に対する休業の意向確認、個別周知
まず最初に「産休・育休」の手続きは、社員の方へ「休業する意向があるか?」の確認をするところから始まります。
【休業の「意向確認」と制度内容等「個別周知」の義務化】
令和4年4月1日から・・・
- 出産予定の「本人」又は「本人の配偶者」である労働者から「妊娠・出産等の申出」があった場合
- 事業主は、「以下の4つ全ての事項」について周知を行ったうえで
- 育休(出生時育児休業*を含む)の取得を希望するか否かについて、その意向を確認すること
が、企業規模の大小を問わず義務化されました。
(*)出生時育児休業:原則、男性労働者が子の出生後8週間以内に限り、合計4週間まで2回に分割して取得できる別枠の育休制度
(個別周知事項)
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」に関する制度内容
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」の申出窓口
- 「(出生時)育児休業給付金」に関すること
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」期間中の「社会保険料」の取扱い
この「意向確認」と「個別周知」については、法的には「育児休業制度」についてのみ行うことが義務化されています。
しかしながら、「産休」に続き「育休」の取得を希望する社員の方には、上記「育休制度」に「産休制度」も加えて対応すべきです。
ちなみに、ここでいう意向確認とは・・・
「対象労働者に問いかけをすること」を指しており、「無回答の者に対する確認義務」までは無い
とされています。
つまり、休業するか否か?の「最終確認を行うこと」までは義務付けられていないということです。
(意向確認・個別周知の方法)
「意向確認」・「個別周知」は、以下の方法により行うこととされています。
- 面談(オンラインによる面談も可能)
- 書面交付
- FAX(労働者が希望した場合のみ)
- 電子メール等(労働者が希望した場合のみ)
【育休を取得しやすい雇用環境整備の義務化】
上記に加え、令和4年10月1日から・・・
- 社員の方からの育休(出生時育児休業を含む)の申出がしやすくなるよう、以下のいずれかの措置を講じなければならないこと
についても、企業規模の大小を問わず、全ての事業主に対して義務化されました。
(事業主が講ずべき措置)
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」に関する研修の実施
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」に関する相談体制の整備等(相談窓口の設置)
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」の取得事例収集~労働者に対する周知
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」制度の社内周知
- 「育児休業」及び「出生時育児休業」取得促進に関する方針の社内周知
上記「いずれか」の措置を講じることが義務付けられましたが、複数の措置を講ずることが望ましいとされています。
少なくとも、上記2.相談体制の整備等については実施しておくべきです。
1-2)産前産後休業届・育児休業申出書の受入
休業の「意向確認」と制度内容等の「個別周知」が終わりましたら、「休業の申出」を受理するステップへと進みます。
と言いましても、ベテランでなければ、なかなか最初から制度内容の「個別周知」を行えるものではありません。
よって、その辺は深く考えずに、まずは予習のつもりで記事を読み進めていただければと思います。
【産休・育休を取得可能な期間】
産休は「出産予定日」の6週間前*~8週間後まで(開始日は「出産日当日」までの間で、出産予定である本人が自由に決められる)
育休は「産休終了日」翌日~生まれた子の「1歳誕生日」前日まで*(保育園等の待機児童になった場合などは最長「2歳誕生日」前日まで)
の間で取得することができます。
*双子以上の多胎妊娠の場合は、「出産予定日」の14週間前から産休を取得できます。/ 多胎妊娠に関わらず、産後8週間は原則就労禁止です。
*夫婦交代で育休を取得する「パパママ育休プラス制度」を利用した場合は1歳2か月の前日まで取得可能です。
~「パパママ育休プラス制度」については、以下の記事で詳しく解説しています。
【産休・育休の申出期限】
産休(産前産後休業)の申出期限にルールは存在しませんが、育休(育児休業)の申出は・・・
育児介護休業法の定めにより、育休開始日の1カ月前までに事業主へ宛て申出する
ルールとなっています。
ただし、できるだけ早めにスケジュールを決めてもらい、産休入り前には申出してもらったほうが無難です。
【出産前に育休申出書を受入れする時の注意点】
産休後に続けて育休を取得する場合には、出産前に育休申出書を受入れすることも多いかと思います。
この場合に注意しておくべきことは・・・
✅育休の開始日と終了日の日付をとりあえず空欄にしておく
ことです。
実際の日付は、出産日が確定してから本人に記載してもらいます。
理由は、出産日が当初予定日通りでなかった場合に、記載した「年月日」が実際のスケジュールから後々ずれてしまうためです。(*)
(*)
実務上は分かりきったことなのですが、育休関連の助成金を申請する場合等では、この辺りについても細かく審査され、訂正を求められることがあります。
【産休・育休の申出書類】
「産休」・「育休」ともに、届出書や申出書の提出は任意となっています。
届出書や申出書を受入れする場合も「書式」について特に指定はありません。
【産休と育休は別々の制度】
ちなみに・・・
- 産休(産前産後休業)は「労働基準法」に基づく「母体保護」を目的とした制度
- 育休(育児休業)は「育児介護休業法」に基づく「仕事と子育ての両立支援」を目的とした制度
となっており、異なる法律による「全くの別制度」であることも知っておきましょう。
2)出産育児一時金の受給手続き確認
産休申出の受理が済みましたら、次は「出産育児一時金」の受給手続きについて確認しておきます。
【出産育児一時金の支給額】
妊娠期間が「85日以上」の場合は、出産費用を補助するものとして・・・
健康保険から「出産育児一時金」が、1児あたり最高50万円(*)までの範囲内で支給されます。
(*)上記は「全国健康保険協会(協会けんぽ)」加入企業の場合
なお・・・
- 産科医療補償制度「対象外」の出産である場合は、最高支給額が48.8万円に減額されます。
- 双子以上の多胎出産の場合は、産児の数だけ、支給額が倍増されます。
- 出産は「85日以上」であれば、生産・流産・死産の別を問いません。
【出産育児一時金の支給申請手続き】
「出産育児一時金」については、基本的に会社側が行う手続きはありませんが、場合によっては社員の方の申請手続きをサポートすべき場合も生じます。
会社がやっておくべきことは・・・
出産予定の医療機関が「出産育児一時金」の「直接支払制度」を実施しているか否か?
について、産休予定の社員の方へ確認を行っておくことです。
「直接支払い制度」を実施していれば、社員の方は「出産育児一時金」の上限額まで、自己負担なしで出産することができます。
この場合、手続きは一切生じません。(医療機関が直接、健康保険へ出産費用の請求を行います)
なお、「直接支払い制度」を実施していない場合は・・・
「社員の方本人」が事前に医療機関へ「受取代理制度」の利用可否を確認する必要があります。
利用可の場合は、「社員の方本人」が「健康保険」に対し、制度利用の申請手続きを行わなければなりません。
この申請を行うことで、社員の方は「出産育児一時金」の上限額まで、自己負担なしで出産することができます。
小規模の助産所等では、医療事務の負担を回避するため、出産する方本人が手続した場合に利用できる「受取代理制度」を採用していることがあります。
ちなみに、上記の「受取代理制度」が利用不可である場合は、出産費用を全額自己負担し、後日、健康保険へ直接請求しなければならないこととなります。
これらの場合、「社員の方本人」による健康保険への申請が必要となりますが、不慣れな手続きとなりますので、できる限りサポートしてあげるとよいでしょう。
◆「出産育児一時金」の申請が必要な場合の「手続き書類」「申請方法」については、全国健康保険協会ページへのリンクを貼らせていただきます。
受取代理制度を利用する場合:出産に関する給付 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)
全額自己負担後に請求を行う場合:健康保険出産育児一時金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)
注)健康保険組合(組合健保)にご加入の場合は、各「組合健保」の手続きルールに従って下さい。
「出産育児一時金」について、この記事に記載がない内容については以下で詳しく解説しています。
3)出産手当金の申請~受給時期の確認
産休期間中の収入を支えるものとして、健康保険から「出産手当金」が支給されます。
【出産手当金の支給額】
全国健康保険協会(協会けんぽ)加入企業の場合を例としますと、休業1日あたりの支給額は・・・
「産休開始日」以前における、連続した12カ月間の各月の「標準報酬月額」平均額 ÷ 30日分 × 2/3
となります。
健康保険加入後、12カ月に満たない場合は・・・
- 12カ月に満たない部分の、各月の「標準報酬月額」平均額
- 全国健康保険協会が別途発表する、全加入者の「標準報酬月額」平均額(30万円:令和6年2月現在)
のうち、いずれか小さい額÷30日分×2/3を支給日額とします。
出産手当金は、産休開始日から終了日までの間に含まれる「土日祝日」など、「所定休日」も含めた日数分について日額ベースで支給されます。
なお、「健康保険組合」加入企業の場合は、各健保組合の規定に従い、支給額が決定され、上記に加えて増額支給が行われることもあります。
【出産手当金は事業主・会社役員も受給できる】
会社の代表取締役・会社役員等 であっても「出産のため」休業した場合は、健康保険法の「妊娠・出産のため労務に服することができなかった期間」のルールに則り、出産手当金を受給することができます。
いっぽう、事業主・役員等は「育児休業制度」の適用対象外となっており、「育児のため」休業した場合は「育児休業給付金」を受給することはできません。
この違いにも注意しておきましょう。
【出産手当金の支給調整】
出産手当金には、以下の支給調整ルールがありますので注意が必要です。
「妊娠・出産のため労務に服することができなかった期間」に、会社が「出産手当金を上回る金額の給与」を支給した場合、「出産手当金」は支給されません。
「妊娠・出産のため労務に服することができなかった期間」中に、会社が「出産手当金を下回る金額の給与」を支給した場合、「支払われた給与額」との差額のみが支給されます。
いっぽう、出産手当金の支給対象期間中に「賞与」を支給しても、支給調整は一切行われません。
なお、「通勤手当」や「住宅手当」「扶養手当」など、毎月「固定額」で支給している手当については、「賃金規定上」可能であれば・・・
休業対象日を含む計算期間については、「休業日数」に応じて日割り計算し「減額支給」することをおすすめします。
一律「固定額」を支給したままにしておくと、休業期間中に「固定的賃金」を支払ったものとして支給調整の対象となってしまいます。
【出産手当金の支給申請手続き】
申請を行うためには・・・
「出産手当金支給申請書」の所定欄に、担当医もしくは助産師による「出産証明」が必要
となります。
このため・・・
- 「出産手当金支給申請書」2枚目の「出産証明欄」のみ
- 「産休入り」する前に「出産予定の社員の方」へ渡しておき
- 「出産する医療機関」へ提出できるようにしておく
とよいでしょう。
なお、出産手当金の申請は・・・
申請時点で、実際に休業した日が確定していなければならず、休業予定の段階では申請できない
仕組みになっています。
また・・・
実際に休業した日が属する月の「賃金締切り期間」が過ぎてからでないと、勤務先による「休業した日に対する賃金支払い有無の証明」がスムーズに行えない(*1)
場合があります。
よって、休業開始後、すぐに支給申請を行うことができる訳ではありません。
(*1)
全国健康保険協会の場合、従前は、賃金締切り期間を経過してからでないと出産手当金の申請自体できないルールとなっていましたが、令和5年1月以降の申請書様式変更にともない、支給対象日を経過していれば申請できるよう要件が緩和されました。
「妊娠・出産のため労務に服することができなかった期間」中に複数回に渡って申請(*2)し、受給を早めることも可能ですが、この場合も各申請手続きにおいて、実際に休業した日が確定しており、かつ休業した日に対する賃金支払い有無が証明されていなければなりません。
(*2)出産前の場合は、担当医又は助産師による「出産予定の証明」が、出産後には「出産証明」が改めて必要となります。
複数の申請を繰り返すと事務負担が大きくなりますので、不要不急でなければ、なるべく「産後休業期間」終了後1回にまとめて申請したほうがよいでしょう。
なお、この記事では「産後休業終了後1回」にまとめて申請する前提で次回以後の手順を解説していきます。
【出産手当金の受給時期】
申請後、入金までには「1カ月程度」かかる場合があります。
産後休業終了後1回にまとめて申請した場合も、1か月程度後の入金となる場合があり、すぐには受給できません。
よって、休業する社員の方との間では、受給できるタイミングについてしっかりと打ち合わせしておきましょう。
【産休中やむを得ず離職する場合】
健康保険法では、出産予定日前42日(多胎妊娠98日)を過ぎてから離職する場合については・・・
支給開始日から、産後56日間全てに対する出産手当金
を受給することができるとしています。
ただし、受給要件として・・・
連続して1年以上、健康保険に加入していること
退職日に出勤していないこと
の2点を満たしていなければなりません。
事業主の方にとっては、産休もしくは育休を取得し、職場復帰する予定であった社員が、思いがけず離職してしまうのですから、心中穏やかではないかもしれません。
ピンチ要員確保等の手配も行っていることを考慮すれば尚のことです。
あえて手当金を受給させてあげようと、会社から働きかけるケースもあるかもしれませんが、この場合は制度趣旨から外れることとなります。
ですので、表題はあくまでも、「やむを得ず離職する場合」とさせていただきました。
当然ながら、受給する労働者の側も、もともと離職するつもりでいて、この特例を利用するのは慎むべきことだと思います。
なお、この場合も、
担当医師・助産師による出産証明
勤務先による「出産のため休業したこと」と「賃金支払い有無」の証明
がなければ出産手当金の申請はできませんので再確認しておきましょう。
◆「出産手当金」申請時の手続き書類については、全国健康保険協会ページへのリンクを貼らせていただきます。
出産で会社を休んだとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)
注)健康保険組合(組合健保)にご加入の場合は、各「組合健保」の手続きルールに従って下さい。
なお、「出産手当金」について、この記事に記載がない内容については、以下の記事で詳しく解説しております。
4)産休開始日と社会保険料免除手続きの事前確認
【産休・育休を取得した場合は月単位で社会保険料が免除となる】
産休・育休を取得すると「健康(介護)保険料」・「厚生年金保険料」が本人負担分、会社負担分ともに全額免除となりますが・・・
保険料が免除となるのは、「妊娠・出産のための休業を開始した月」~「産後休業終了日の翌日が属する月の前月」まで
と月単位での免除となります。
よって、 「産後休業を終了する月」は、月末日まで休業していないと免除の対象になりません。
ただし、「産後休業」に引き続き「育児休業」を取得するのであれば、「育児休業を開始した月」から再度、保険料は免除となりますので、免除期間に継ぎ目が発生することはありません。
なお・・・
「産後休業」に引き続き「育児休業」を取得する場合は、「育児休業終了日の翌日が属する月の前月」まで
社会保険料が免除となります。
(*)育休期間については、同一月内に「開始日」と「終了日の翌日」がある場合に限り、「月末日」に休業していなくても「14日以上」休業すれば免除となります。
上記の対象月に・・・
支払った「給与」の「社会保険料」は全額免除となり控除する必要はありません
ただし、「賞与」を支払った場合は・・・
対象となる月が「妊娠・出産のための休業期間中」の月であれば全額免除(控除の必要なし)
となりますが
対象となる月が「育休期間中」の月である場合は、当該「育休期間」が1カ月以上ないと免除されません(控除の必要あり)
ので注意が必要です。
なお、会社代表者・役員等 であっても「出産のため」休業した場合は、健康保険法の「妊娠・出産のため休業した期間」のルールに則り、社会保険料免除を受けることができます。
いっぽう、会社代表者・役員等は「育児休業制度」の適用対象外となっており、「育児のため」休業した場合、社会保険料免除を受けることはできません。
この違いにも注意しておきましょう。
【雇用保険料・所得税・住民税は免除されない】
免除対象となる社会保険料に「雇用保険料」は含まれません。
「所得税」・「住民税」についても、産休・育休の取得に関係なく納付する必要があります。
なお、「雇用保険料」と「所得税」については、休業期間中に「給与」や「賞与」の支払いが発生した場合のみ「源泉徴収」もしくは「預り金として控除」する必要があります。
「住民税」については「給与」や「賞与」の支払いに関係なく納付しなければなりません。(こちらについては後ほど解説いたします)
ちなみに、労災保険料(全額事業主負担)についても、免除対象外となっています。
【給与・賞与からの保険料引き落し停止時期を確認】
社会保険料が免除となるのは、「妊娠・出産による休業を開始した月」からとなりますので・・・
例えば、
- 給与締切日:「月末日」
- 給与支払日:「翌月10日」
- 6月10日:「5月分の給与支払日」
- 6月20日:「賞与の支給日」
- 6月30日:「休業開始日」
であった場合も、「6月分の社会保険料」から免除が開始されることとなります。
まずは、「賞与支払い時」の社会保険料から見ていきます。
上記の場合、6月20日支給の賞与に対する保険料は全額免除となります。
「産休開始日」よりも「賞与支給日」の方が前にある場合でも、「産休を開始した月」の賞与にかかる社会保険料は全額免除となる
ことについて、しっかりと覚えておきましょう。
もし、間違えて保険料を引き落してしまった場合は返金の手続きが必要となります。
次は、「給与支払い時」の社会保険料について見ていきます。
こちらは「賞与支払い時」とは免除の取扱いが異なる場合がありますので注意が必要です。
もう一度、例をみてみますと・・・
- 給与締切日:「月末日」
- 給与支払日:「毎月10日」
- 6月10日:「5月分の給与支払日」
- 6月20日:「賞与の支給日」
- 6月30日:「産休開始日」
であった場合 、「6月分の社会保険料」から免除が開始されることとなりますが、「給与支払い時」については・・・
6月10日支払いの「5月分給与」から社会保険料の引き落しを停止すればよいか?
というと、そうとは限りません。
なぜなら、「社会保険料の納期限」は「翌月末」となっています。
よって・・・
「6月分の社会保険料」を「翌7月10日」支払いの「6月分給与」から引き落し「7月末」までに納入している会社
のほうが一般的です。
このような会社を「翌月扱い処理」の会社と呼ぶこととしましょう。
いっぽう・・・
「6月分の社会保険料」を6月10日支払いの「5月分給与」から引き落し「7月末」までに納入している会社
もあります。
このような会社を「当月扱い処理」の会社と呼ぶこととしましょう。
「当月扱い処理」の会社の場合は、「産休開始日」が「給与支払日」よりも後の場合も、当該「給与支払日」から引き落しを停止しておく必要があります。
このように、自社がどちらの取扱いとなっているか確認し、社会保険料引き落し停止のタイミングを事前に見定めておく必要があります。
毎月引き落しする社会保険料の金額は、基本的に一定額のため分かりにくいですが、保険料額が改定された際に、どのタイミングで引き落し額に反映させているか確認すれば、「当月扱い処理」なのか「翌月扱い処理」なのかを知ることができます。
もし上記「引き落し停止」のタイミングを間違えた場合は、「引き落し再開」のタイミングを同じだけ「スライドする」などして、忘れずに精算しましょう。
【社会保険料の免除を受けるためには別途申請が必要】
社会保険料の免除を受けるためには、別途、免除申請が必要となりますが、こちらは「産休開始後の手続き」で改めて解説します。
なお、産休・育休期間中の社会保険料免除について、この記事に記載がない内容については、以下の記事をご参照下さい。
5)通勤手当等「固定的賃金」の調整方法確認
【ルールは会社毎に決定】
産休・育休期間中の「通勤交通費」支払については、特にルールは無く、会社毎に自由に決定します。
ただし、「就業規則」や「賃金規定」に、あらかじめ定めがある場合は、その定めに従わなければなりません。
【実費精算としておくのが望ましい】
休業期間中の通勤交通費については、あらかじめ、休業予定日数に応じて減額を行い、休業期間中に出社した場合については実費清算とする方法をおすすめします。
通勤定期券を現物支給している場合も、可能な限り、払い戻しの手続きを行い、休業前に精算しておくことが望ましいです。
休業期間中の日数分についても、一律固定額を支給したままにしておくと、「出産手当金」「育休給付金」の支給額算定の際、休業期間中に固定的賃金を支払ったものとして、支給調整の対象となり、支給額が減額されることとなります。
【その他の固定的賃金について】
その他、「住宅手当」「扶養手当」など、毎月「固定額」を支給している手当についても、「賃金規定上」可能であれば・・・
休業対象日を含む計算期間については、「休業日数」に応じて日割り計算し「減額支給」することをおすすめします。
こちらも、一律「固定額」を支給したままにしておくと、休業期間中に「固定的賃金」を支払ったものとして支給調整の対象となります。
6)出産育児一時金を上回る出産費用の医療費控除について説明
出産に要した費用は医療費ではありませんが、出産育児一時金などの公的な補助を受けられる範囲を上回る部分の出産費用については、他の医療費と合算して所得税の医療費控除(地方税も控除されます)を申告することができます。
年間の医療費と合算し、10万円(総所得金額が200万円未満の場合、総所得金額の5%)を超える場合は、確定申告を行うことで支払った所得税および地方税(住民税)の控除が受けられます。
妊婦検診時や出産時の領収書・明細書(公共交通機関を利用した場合の交通費や緊急時のタクシー代、入院中の食事代も含む)を大切に保管しておくことをご本人様へお伝えしておくようおすすめします。
なお、詳細は税理士先生もしくは所轄税務署の窓口へご確認いただきたくお願い致します。
まとめ
今回は、第1回として、「産休開始前の手続き(前半)」について解説してきました。
この記事が、初めて産休・育休の申出を受けた場合など、どうしてよいか分からず困っている会社経営者・労務担当者の方々にとっての一助となれば幸いです。
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- 産休・育休申出者への相談対応に必要となる最新の制度情報収集
- 休業申出書・育休取扱通知書等、各種必要書面の準備
- 切迫早産・切迫流産等発生時の傷病手当金(*)、帝王切開時の高額療養費限度額適用認定(*)申請
- 出産手当金(*)・育休給付金・社会保険料免除等、産休・育休に必要な全ての申請(手続代行)
- 社会保険料引き落しの停止や地方税徴収方法変更等、給与支払事務の変更手続
- 職場復帰後の「休業終了時 社会保険料特例改定」(手続き代行)
- 「厚生年金保険料 養育期間特例適用」申請(申請書作成のみサポート)
(*)電子申請できない書類は書面作成のみサポート致します。
CLASSY. 2024年2月号(12/27発行) 「“私”のアドバイザー」欄に掲載されました
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