この記事では、 事業主に対する「年次有給休暇を年5日取得させる義務」について「基本的なルール」や「適用対象者」「罰則」等について簡単に解説しています。
<この記事はこんな方におすすめです>
✅会社の経営者・労務担当者の方
✅年次有給休暇の5日付与義務について知りたい管理職・労働者の方
はじめに
年次有給休暇は「年5日は取らせなければならない」と耳にしたことはないでしょうか?
2019年4月以降、企業規模の大小を問わず全ての事業主に対して「年次有給休暇の年5日付与」が義務化されています。
この記事では【有給休暇の年5日付与義務】について3回に渡り解説しています。
今回は第1回として、「基本的なルール」や「適用対象者」「罰則」等について解説していきます。
なお、「時間単位」や「半日単位」による年次有給休暇や「特別休暇」を取得した場合、「年5日付与義務」の履行に含められるか?等については以下の記事を↓
「新入社員」や「退職予定者」「出向者」 等に対する「年5日付与義務」の取扱いについては以下の記事をご参照下さい。↓
年次有給休暇は年5日取得させる義務がある
年次有給休暇は・・・
企業規模の大小にかかわらず
1年間に10日以上の付与義務がある労働者に対して
1年間に最低5日間、「時季を指定して」
取得させなければなりません。
ここでいう「時季を指定して」というのは・・・
事業主が「労働者の意見を聴取」した上で、その希望をできる限り尊重した上で、有給休暇日を決定
し、取得させなければならないという意味です。
<時季指定の方法>
引用元:年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説 厚生労働省 000463186.pdf (mhlw.go.jp)
使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。
また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。
さて、上記のとおり、最低5日間については「時季を指定して」取得させなければならないとされているなかで・・・
例えば、既に2日間の年次有給休暇を「自ら申出して取得済」である労働者についてはどうなるのでしょうか?
この場合は・・・
残りの3日間について「時季を指定して」取得させれば足りる
こととなります。
つまり、労働者が「自ら申出して取得した分」と通算して、年間5日となるように取得させればよいということになります。
一方、上記を通算し「年間5日を超える日」については、逆に「時季指定できない」こととなりますので、こちらも注意しておきましょう。
なお、「時季指定済」の年次有給休暇日が到来する前に、自らの申出により5日間の有休を取得した場合も、あらかじめ「時季指定」した年次有給休暇予定日が無効になる訳ではありません。
ただし、この場合、労働者本人との間で取り決めすれば「時季指定」した日の取消しをすることができます。
有休を「時季指定」して取得させるためには「就業規則」への記載が必要
ちなみに・・・
「時季を指定して」年次有給休暇を取得させる場合には、その根拠となる規定を「就業規則」へ定めておかなければなりません
ので、こちらも注意が必要です。
計画年休を5日間の有休取得に代えることもできる
就業規則において「年次有給休暇の計画的付与(計画年休制度)」について定めている場合は、労使協定を締結することにより、あらかじめ事業主が指定した日に年次有給休暇を取得させることができます。
この場合、個々の労働者の意見を聴取して休暇日を指定する必要はありません。
この計画年休制度は・・・
- 全社一斉に指定する「一斉方式」
- 班・グループ別等により指定する「交代制方式」
- 各個人別に指定する「個人別方式」
の3つの方式がありますが、いずれの場合も「最低5日間」は「労働者が自由に時季を指定して取得できる」よう、日数を残した上で指定しなければなりません。
なお、この計画年休制度によって、5日以上の年次有給休暇を計画的に取得させることにより、「有休の5日付与義務」を満たすことができます。
短時間労働者(パート・アルバイト)の有休年5日付与義務はどうなる?
それでは、年次有給休暇の権利日数が「1週間あるいは1年間の所定労働日数」に応じて少なく与えられる(比例付与される)、パート・アルバイトなどの短時間労働者については、どのような扱いになるでしょうか?
結論から言いますと、短時間労働者については・・・
「年間10日以上」年次有給休暇の権利日数が与えられる場合に限り
最低5日間の「時季指定」による年次有給休暇付与義務が生じます。
「年間10日間」の基準が「1週間あるいは1年間の所定労働日数」に比例して引き下げられる訳ではありません。
ちなみに、年次有給休暇の権利が与えられる日数は、労働基準法によって以下のとおり決められています。
上段が、通常の労働者に与えられる権利日数であり、下段が短時間労働者(パート・アルバイト等)へ与えられる権利日数となっています。
短時間労働者の権利日数は、1週間あるいは1年間の所定労働日数に応じて与えられる(比例付与する)こととなっています。
なお、各勤続年数に到達するまでの1年間(初回のみ6か月間)に、8割以上出勤した者にのみ新たな権利日数が与えられます。
上記のように、年次有給休暇の権利日数付与基準は・・・
1週30時間以上の短時間労働者か否か?を判定する際にのみ「所定労働時間」を判断基準としており
それ以外については全て「所定労働日数」のみが判断基準となっている
ことに注目しておきましょう。
それでは、最低5日間の年次有給休暇「時季指定」付与が必要となる短時間労働者とは、どのような基準に該当する労働者なのか?のみ抽出してみていきましょう。(上記表中の黄色部分に該当する短時間労働者が対象となります)
有休を年5日間取得させる義務が生じる短時間労働者
「年間10日以上」の年次有給休暇の権利日数が付与される以下の短時間労働者が対象となります。
1週間の所定労働時間が30時間以上(いわゆる正社員の3/4以上)の短時間労働者
週4日勤務で、勤続3年半以上の短時間労働者
週3日勤務で、勤続5年半以上の短時間労働者
なお、週により勤務日数が異なる場合は・・・
- 1年間の所定労働日数が「169日~216日までの間」にある場合は勤続3年半以上
- 1年間の所定労働日数が「121日~168日までの間」にある場合は勤続5年半以上
で、対象となります。
ちなみに、短時間労働者の場合・・・
前年度の基準日に権利日数が付与された年次有給休暇の「未消化繰り越し」分
と
今年度の基準日に権利が付与された年次有給休暇日数
を合計し、
初めて権利日数の合計が10日以上となる場合
があります。
この場合は、 「未消化分」の繰り越し分については含めずに考えます。
よって、「年間10日以上」年次有給休暇の権利日数が与えられたことにはならず、年5日年次有給休暇付与義務の対象とはなりません。
管理監督者等(労働基準法41条該当者)にも有休年5日取得義務は適用される
労働基準法41条では、以下に該当する労働者に対しては「労働時間」「休憩」「休日」の規定を適用しないと定めています。
【労働基準法41条該当者】
- 管理監督者であって、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者
- 農水産業従事者(林業を除く)
- 監視など断続的労働従事者で労働基準監督署の許可を受けた者
しかしながら、「深夜業」「年次有給休暇」の規定については、適用除外の対象に含まれていません。
よって事業主は、
管理監督者等の労働基準法41条該当者に対しても、年次有給休暇の5日付与義務を履行しなければなりません。
時間外や休日残業代がつかない、部長・所長といった管理監督者等であっても、年5日は時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりませんので、間違えないように覚えておきましょう。
産休・育休明けや休職明けの場合も有休年5日付与は必要?
「産前産後休業(産休)」や「育児休業(育休)」もしくは「私傷病による休職」等から職場復帰した場合・・・
当該「職場復帰日」から「新たな年次有給休暇の権利付与基準日」までの日数が短くなる場合
があります。
はたして、このようなケースで、年5日の年次有給休暇取得ができていない場合はどうしたらよいでしょうか?
その答えは・・・
産休・育休明けの場合は、例外なく、
私傷病による休職明けの場合は、年次有給休暇の権利付与基準日をまたいで休業していなければ
年5日に満つるまで、時季指定により年次有給休暇を取得させなければならない
ことになります。
ただし、例えば、既に1日の有休を取得済の状態で休業したものの、「職場復帰日」から「新たな権利付与基準日」までの日数が4日未満しか無いような場合には、「基準日までの残りの日数」を取得させればよいこととされています。
さて、それでは「産休・育休」の場合と「私傷病による休職」の場合とでは、なぜ扱いが異なるのでしょうか?
その理由は・・・
産休・育休期間中については、年次有給休暇権利付与時の出勤率(8割以上)算定にあたり、出勤扱いとして計算すべきこと
が労働基準法に定められている一方で、私傷病による休職の場合はこのような定めがないことにあります。
例えば、私傷病による休職期間が、年次有給休暇の権利付与基準日をまたいでいる場合で、
権利付与基準日における出勤率算定において、私傷病による休職期間を欠勤扱いとした場合・・・
出勤率8割以上を満たさず、新たな年次有給休暇の権利付与が行われない場合があります。
新たな年次有給休暇の権利日数付与が行われなかった年については、5日間の年次有給休暇付与義務も発生し得ないということです。
ただし、出勤率の算定において、私傷病による休職期間は必ず欠勤扱いにしなければならない訳ではなく、会社独自の判断により、出勤扱いとして就業規則に定めることも可能です。
仮に、出勤扱いとした場合で・・・
10日以上、年次有給休暇の権利を新たに付与することとなれば、年5日間の有休付与義務も同時に発生することとなります。
ちなみに、労働基準法において、全て出勤日扱いとして「年次有給休暇の権利付与日数」を算定すべきとされている休業期間(休業日)は以下の通りとなっています。
【必ず出勤扱いとすべき休業期間】
- 業務上の負傷、疾病等による休業期間
- 産前産後休業期間
- 育児休業期間
- 介護休業期間
- 年次有給休暇の取得日
なお、上記2・3・4については「労働基準法」及び「育児介護休業法」に基づく休業期間を指します。
有休の年5日付与義務に違反した場合の罰則
年次有給休暇の年間5日付与義務に違反した事業主については・・・
労働基準法違反として、企業規模の大小を問わず
違反対象となった労働者1人あたり最高30万円の罰金
を課される場合があります。
違反対象となる労働者が複数となれば、その乗数分、罰金額も大きくなりますので、しっかりと対応しておきましょう。
有休の「時季指定」について就業規則に記載がない場合の罰則
もう一つ、注意すべき点として・・・
年次有給休暇を労働者へ「時季指定」して取得させる場合には、その旨「就業規則」へ明記しておかなければならない
ことがあります。
就業規則に「時季指定」について明記せず、上記の運用を行った場合、「有休の年5日付与義務違反」と同じく・・・
労働基準法違反として、企業規模の大小を問わず
違反対象となった労働者1人あたり最高30万円の罰金
を課される場合があります。
こちらについても、しっかりと対応しておきましょう。
まとめ
今回は、【有給休暇の5日付与義務】の第1回として、「基本的なルール」とともに「適用対象者」「罰則」等を中心に解説しました。
この義務に違反した場合は、企業規模の大小に関わらず、労働基準法違反として罰則の対象となってしまいますので、会社経営者・労務担当者の方は、しっかりと制度内容を理解した上で、従業員を円滑に休ませられる体制を構築しておかなければなりません。
ぜひこの記事を活用し、社内体制の整備に役立てていただければと思います。
なお、「時間単位」や「半日単位」による年次有給休暇や「特別休暇」を取得させた場合、「年5日付与義務」の履行に含められるか?等については以下の記事を↓
「新入社員」や「退職予定者」「出向者」 等に対する「年5日付与義務」の取扱いについては以下の記事をご参照下さい。↓
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